富山市医師会について
令和4年度(2022年度)富山市医師会事業計画
令和4年度富山市医師会事業計画
2020年1月16日、国内で新型コロナウイルス感染者が初めて発表されてから2年が経過した。ウイルスは変異で頻繁に姿を変え6度にわたって流行の波を繰り返し、富山県も昨年のデルタ株の第5波では、急速に感染者が増加し、医療崩壊が危惧される状態になった。富山市医師会員の多大なる協力により、富山市はワクチン2回接種率90%以上を達成することができ、昨年秋以降は急速に収束した。年明けから感染力の強いオミクロン株が急速に広がり第6波が発生したことから、再び会員の協力をいただき、富山市が目指す本年5月末までを目標に3回目のワクチン追加接種を進めているところである。さらに、今までの入院治療、宿泊施設療養に加えて、自宅療養者に対する医療行為の提供を充実させる必要がある。
今年度は、診療報酬改定がされ、10月には後期高齢者医療の窓口負担が一定以上の所得がある人を対象に2割になる。健康管理センターは、感染状況をみながら順次サービスを再開し、新規導入した健診システムを活用して、安定経営を目指していく。看護専門学校では、今年度准看護師教育課程のカリキュラム改正が行われるが、ここ数年減少している看護学生の募集・確保に総力を挙げ、地域や会員の先生方に必要とされる看護職者を養成していく。富山市・医師会急患センターは、2023年4月からのさらなる診療時間短縮に向けて、住民への周知をするとともに、迅速かつ適切な診療体制を構築する。
地域の医療・保健・福祉を守ることは医師会の責務と考え、富山市医師会は以下の事業を行う。
1.医療制度改革への監視と提言
2020年からの新型コロナウイルス感染症により日本の医療の弱点が明らかとなった。その時々の経済効率を優先する医療政策と診療報酬改定、さらには病床などの細かな規制によって柔軟性と余裕に乏しいシステムとなり、危機に俊敏に対応できなくなっていた。新型コロナウイルス感染症の蔓延に対して、十分に対応できる医療機関が不足していることに世論から厳しい評価も受けているが、低コストを目指す国の医療制度改革の結果として、危機に対応できるような冗長性は失われている。さらには、新型コロナウイルス感染症蔓延初期には医療資材や情報の裏付けのないままに、国からは連日数多くの通知や指導が出され、医療や介護、そして地域の行政は混乱と疲弊が増大することとなった。
新型コロナウイルスワクチン接種において、当時の内閣や政府から接種の前倒しと加速化を促す発言や方針が突然マスコミ等で報道され、行政や医療機関においては多大な努力を費やすこととなった。さらにはワクチン不足が明らかとなり、大きな混乱に陥ることとなったこともまだ記憶に新しい。すでに過重な負担となっている医療機関・介護施設や地方自治体の混乱をきたすことのないように国としても十分に配慮していただきたい。
社会保障費は人口の高齢化に伴う2022年度の自然増は約6,600億円とされているが、4,400億円に圧縮することになり、社会保障の大きな抑制が予定されている。財政危機の端緒はあたかも社会保障費の増大のみにあるように財務省や経済界は喧伝しているが、長年続けられてきた景気刺激策に伴う財政赤字の累積も大きな要因である。1973年に第1次オイルショックにより高度経済成長期といわれた好景気が終了し、1975年に赤字国債が発行された。その後も金融危機、ITバブル崩壊、リーマンショック、大震災、さらには新型コロナウイルス感染症など大きな経済危機が訪れるごとに財政的な負担が発生している。そのことが財政を硬直化させ、社会保障費の抑制といった国民すべてに痛みを伴う政府の方針に繋がっており、今後のさらなる抑制が危惧される。2022年10月には後期高齢者医療の窓口負担が引き上げられ、多くの医療や介護を必要とする収入の少ない年齢層の負担は大きく増大することにも不安を抱く。
診療報酬改定では、本体部分0.43%増とされているが、不妊治療や看護職員の処遇改善に0.2%が振り分けられている。本来新規の政策的な経費は、それまでの診療報酬の中で負担すべきものではないと考える。それに対してリフィル処方箋の導入や小児の感染防止対策部分で0.1%ずつ削減されており、子どもから成人、老人まで診ている多くの医療機関には厳しい改定となっている。最近の人件費や資材の購入費、燃料費等の上昇も著しく、医療機関や介護施設等の経営はますます難しくなっていくと危惧している。リフィル処方箋、オンライン診療なども含め、経済界からのコスト削減、表面的な利便性の向上などを求める声に配慮した改定も行われている。かかりつけ医機能強化といった言葉が強調される一方で、低コスト化、商業化の方向へ向きつつある診療報酬の今後のさらなる変化にも注意が必要である。また、ICTの活用とデジタル化の負担の大きい中小規模の医療機関への配慮も重要である。
2024年度からの第8次医療計画に向けての検討が始まっている。これは2021年度の医療法改正を受けて、新興感染症対策を新たに盛り込み5疾病6事業とするとともに、地域医療構想および医師確保計画、外来機能報告、在宅医療および医療・介護連携等について検討が進められている。医療側からは新型コロナウイルス感染症の蔓延から見えてきた幾多の課題もあり、従来の地域医療構想を見直すべきとの意見が多く聞かれるが、将来の人口構造には変わりがないことを理由に大きな見直しもなく進められようとしている。地域の実情に十分配慮した地域医療計画の策定と地域医療構想の検討が進められるよう提言していきたい。
これからも、すべての世代が公平に安心してより良い医療と介護が受けられるように、富山市医師会としても努力していきたい。
2.危機管理体制の維持・充実
新型コロナウイルス感染症はいまなお収束してはいないが、ワクチンや治療薬の開発・使用が進み、ようやくwithコロナへと向かうことが期待される。
現在、当医師会ではパンデミックや大雪・地震・水害などの大規模災害に対するマニュアルや事業継続計画(BCP)の策定・整備を行っているが、全ての関係者に周知徹底するとともに、毎年見直し・改訂・充実を図っていく必要がある。
2021年度も、新型コロナウイルス感染症の影響で、富山県総合防災訓練は不参加、富山市総合防災訓練は中止となったが、コロナ禍であっても災害の発生は待ったなしであり、行政とともにその時のために今できる備えを検討・実施していきたい。
2021年度は、当医師会主催の医療安全管理セミナーや危機管理委員会はZoomを活用したWEB開催を併用しながら行ってきたが、富山市感染症危機管理医師研修会や防災講演会などは中止せざるを得なかった。2022年度はさらにWEB開催を増やすなどして、より多くの方に利用していただくことを目指したい。
3.富山市・医師会急患センターの運営
2021年度より外科、小児科診療が午後12時で終了となったところであるが、2022年度から内科診療が翌日の午前2時までと短縮、2023年度からは全科午後12時で終了となる予定である。全国でも稀ともいえる翌朝までの初期救急医療体制の変更となるが、深夜当直医の疲弊や小児科の当直医不足、また2024年度からの医師の働き方改革に対応すべく関係各位と協議を重ねた結果である。改めてご協力いただいている日・当直の先生方、今後負担増となる二次、三次救急医療機関各位には感謝とともにご理解ご協力をお願いする次第である。2021年度より土曜日は午後2時から内科・外科診療を開始しているが、引き続き周知を図り医療体制を充実させていきたい。
コロナ禍において当センターでは発熱診察室を開設し、平日夜間や休日の発熱患者の診療に核酸増幅法(NEAR法)や抗原定性検査を用いて積極的に対応してきた。この間リスク承知で発熱診察にあたられた先生方や職員には心より感謝申し上げる。パンデミックの出口はまだ見えず、2022年度も細心の注意を払いながら同様の対策を行っていく予定であるが、引き続きご協力をお願いする次第である。
全国での夜間小児急患診療体制の整備については地域差があり、#8000番の導入後、軽症受診者のトリアージについて効果的に機能している地域もあると考えられている。1994年度から2019年度までの小児科における時間外の年間受診者数は1994年度の年間約9千人から少子化にも関わらず受診者数は増加し、現在は年間1万5千人前後で推移している。夜間受診者数は一日平均30名前後で推移し、翌日の午前0時から午前6時までの平均受診者数は5名から6名であった。このうち午前2時から午前6時までは1日平均1.9名であり、深夜帯の二次救急医療機関への紹介は月平均1.6人程度であった。夜間受診者の80%は午後12時までに受診していたのが現状である。2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響と感染対策に伴う一般感染症の減少、加えてインフルエンザの流行もみられず小児の時間外受診者数は2019年に比べて70~80%減少しており2021年度においても同様の傾向が続いた。2021年度から夜間の体制については午後12時までとなり、深夜帯での診療については二次救急医療機関へ問い合わせいただく診療体制となったが、初期救急診療については夜間体制が午後12時までを担う体制で可能な限り継続、維持できるように地域小児科医への協力を求めていくとともに、今後の実情に応じた一次小児救急診療についても継続と臨機応変な体制維持に努めたい。
4.病診連携の推進と勤務医労働環境の改善
2017年3月に策定された「富山県地域医療構想」、および2018年3月に改定された新たな「富山県医療計画」の中で、各医療圏の実情を考慮した高度急性期から急性期、回復期、慢性期、在宅医療・介護に至る医療機能の分化と連携の推進、および地域包括ケアシステム構築への指針が示されている。この医療計画を推進する上で、医療連携に果たす富山市医師会の役割は極めて大きい。医療機能の分化と連携を円滑に推進するためには、病診連携による情報共有が大変重要であり、富山市医師会は“たてやまネット”や医師会主催の地域連携の会などを通して連携のハブとしての役割を引き続き担っていきたい。
医師の労働環境については、日本医師会の「医師の働き方検討委員会」で議論され、厚生労働省で検討中の「医師の時間外労働上限規制」が2024年4月から適用されることから、富山県内においても医師の働き方改革を推進していかなければならない。また、2020年度診療報酬改定の基本方針では、救急医療を中心とした「医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進」が重点課題に位置づけられた。救急医療に関して富山市では、初期救急を担う富山市・医師会急患センターと二次救急医療機関の連携が順調に進んでおり、急性期病院勤務医の負担軽減に大きく貢献している。しかし医師の過重労働を防ぐためには、救急医療以外にもタスクシフトや医療連携など様々な労働環境の改善が必要である。富山市医師会では、勤務医負担軽減について地域全体に共通する課題を検討し、働き方改革への施策を実施していきたい。また男女共同参画の観点から、女性勤務医師の労働環境改善と積極的な活躍を支援していきたい。
5.男女共同参画の推進
医師に占める女性の割合はますます増加しており、女性医師が様々なライフイベントに対応しながらキャリア形成を諦めずに働き続けることができる環境は、女性医師のみならず全ての医師にとって働きやすい環境であり、医師の働き方改革に果たす役割は大きいと考えられる。
富山市医師会では、富山大学と富山県医師会に協力して、子育てしながらも継続してキャリアアップに努める若い医師たちが、医学生や研修医を対象に身近なロールモデルとして活躍の様子を提示する講演会・座談会を毎年2回開催してきた。女性医師の多い医局では、若い女性医師たち自らが話し合いルールを決め、時には医局のルールとして子育てをしながら働き続け、キャリア形成を継続していた。医局全体を巻き込んだ変化や改革は、これから女性医師が増えるであろう医局や病院にとっても今後取り組むべき課題である。
女性医師がその能力を十分に発揮し、組織の意思決定を担う場においても重用される男女共同参画社会の実現はまた医療界の活性化にも繋がることと考える。富山大学女性医師支援室、富山県医師会と協力したこれらの活動では引き続き学生や研修医、さらに積極的に上級医にも参加を呼びかけ、男女共同参画への理解と意識の改革を進めて人材育成・活用につなげ、女性医師が活躍できるような環境整備を進めていきたい。
6.在宅医療と地域包括ケアシステムの推進
地域包括ケアシステムの構築とは、可能な限り住み慣れた地域で安心して暮らせるまちづくりである。それには国の在宅医療連携拠点事業、在宅医療推進事業を基盤とした在宅医療体制構築、在宅医療推進、在宅医療介護連携推進、医療・介護関係者の研修、地域住民への啓発などが必要となる。富山市医師会はこれらを踏まえ、在宅医療と地域包括ケアシステムの推進の事業計画を下記のとおりとする。
①在宅医療の質向上のための医療職・多職種を対象とした研修会の開催
②医療・介護の情報共有化、普及を目指した事業の展開
2018年度に設置した、「医療・介護情報共有化普及・推進協議会」を通じて富山市と協議をしながら、既存の仕組みに追加したシステムによるIT推進事業を展開
③エリア会議による医療と介護のさらなる信頼関係の構築
④在宅医療・介護サービスの普及・啓発のための市民公開講座の開催
⑤在宅医療の環境整備および在宅医療を実施している会員への支援
富山市医師会としては、これらの事業を通じて在宅医療を行う上での環境整備とそれに関わる多職種の人材づくり、在宅医療連携拠点整備を行っていく。
7.保健、福祉との連携強化
新型コロナウイルスワクチン接種が進んだことなどによって、高齢者が利用する介護施設や介護サービスなどでも感染による重症化や生命の危機に直結するといった深刻な状況は少なくなってきているが、まだまだ気を緩めることはできない。
引き続き、感染症への対応に留意しながら、介護報酬や介護従事者の就労環境の問題も含め、各種制度の持続可能な運用が図られるよう、多職種の人的な交流や研修会の開催等を可能な範囲で進めていきたい。
8.行政との連携による乳幼児・学校保健活動の充実および小児領域の在宅医療整備への取り組み
乳幼児の健康予防医学の充実の基本である予防接種の接種率の向上および現在任意で行っている予防接種の定期接種化に向けた啓発と、これに関わる接種後の疾病構造の変化や関連する市中感染症の流行状況などを行政と連携し、検証することで小児の健康維持推進に努めたい。また、定期接種であっても国および自治体による積極的勧奨が差し控えられているHPVワクチンについては、全国的に対象年代の保護者に個別通知および啓発を行う取り組みがなされ、2022年度からは自治体において積極的な勧奨を再開することになった。富山市医師会としても、会員にHPVワクチンについての情報を周知しながら、対象年代の保護者および接種対象者への情報提供を充実させたい。
学校保健活動についてはこれまでの運動器検診への取り組み支援やすこやか検診によるこれまでの評価・結果およびすこやか相談事業の見直しへの協力など、これまで以上に充実した検診業務になるよう努めていく。さらに、昨年度から引き続き新型コロナウイルス感染症の学校保健への影響により、保健活動や学校現場における感染事例などこれまで経験したことがない案件について、富山市医師会としても富山市教育委員会と連携して新型コロナウイルス感染症対策検討会議と情報共有していきたい。
ポストNICUや重症心身障害児などの小児医療的ケア・小児在宅医療問題については、2021年9月より医療的ケア児支援法の施行がなされ、富山市医師会小児医療的ケア・在宅医療問題検討会と乳幼児保健委員会が協力できる範囲内でこの問題を取り上げ、行政や富山医療圏の関連医療機関や地域医療連携医との協力を図るとともに、これにかかわる多職種連携のための啓発研修会を企画・実施しており今後も可能な範囲で継続していきたい。2019年度からは、富山県および富山市においても医療的ケア児支援者養成研修会事業やコーディネーター養成研修会が開催され、富山県医師会と共にこれらに協力した活動を継続し、富山市から県内全域へ連携できる体制を推進していきたい。乳幼児期から医療的ケアを必要とする子どもたちが安心して成長・発達・生活していける医療・福祉・教育連携へ富山市医師会として具体的にできることを整理して解決できるようにしたい。また、医療的ケア児・者の災害対策についての体制基盤構築なども全国的に求められており、これについては富山県医師会および富山県小児科医会と連携して参画していきたい。
3歳児健診における屈折機器を用いての他覚的な屈折検査は、富山市では2019年度より実施されている。そのデータを利用し弱視の頻度を検討していきたい。また色覚検査は富山県ではすべての学校で実施されている。富山県教育委員会では養護教員の多忙を考慮し、毎年の色覚検査データの収集を行なわないとしている。各学校にはデータが残されているので、富山市では全体のデータを毎年収集してもらうよう富山市教育委員会と相談したい。
9.特定健診・がん検診及び緑内障検診
2008年度から始まった特定健診は第Ⅲ期5年目を迎える。さて、2021年5月から新型コロナウイルスワクチンの住民接種が本格的に始まったが、特定健診およびがん検診、各種検診の開始時期と重なったためスタートを6月に遅らせざるを得なくなった。また開始後も各医療機関においては日々の新型コロナウイルスワクチン接種で大変な中での健診・検診業務となり、多忙、混乱を極められたと推察する。そのような中でも医療機関のご協力により大きな混乱なくほぼ例年通り行われ、受診数等も大きな減少とはならなかった。毎年行っていた症例検討会(がん検診)、講演会は引き続き中止とした。2022年度は健診、検診には特に大きな変更点はないが、引き続き新型コロナウイルス感染症の状況を見ながら慎重に運営していきたい。
また、緑内障検診は受診率の向上と診断精度の向上を目指したい。2021年度の受診率は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、例年より低率であったが2020年度より向上した。TVによる受診勧奨が富山市から行われ効果的であったと思われる。引き続きTVによる受診勧奨を富山市に依頼する。また光干渉断層計(OCT)検査は高い診断精度を有し導入を目指したいが、検査費用に見合わない。緑内障検診の住民への周知、OCT検査の必要性とその費用について富山市と引き続き協議したい。
10.スポーツ、運動器に関する啓発・検診
今年開催された北京冬季オリンピックにおいてドーピングが大きな問題になったが、メダリストでさえも小児期に負った損傷によって、哀れな状態で老後を過ごすことになる例も多いと言われている。現在も、いまだに怪我を押して競技を続けることが、さも立派な美談として報道等で語られる風潮が見られ、そうしたことが、子どもたちを取り巻く学校や家庭などにおいても大きな影響を与えていることは、由々しき事態であると言わざるを得ない。
スポーツを指導する際、何が必要で何が害になるかを、タブーを取り払い社会全体の問題として考え直す必要があると思われる。
行政が主催する各種スポーツイベントに参画し、トラブルの防止に努めてきたところであり、今後とも、こうした様々な機会をとらえて、より積極的に提言していきたい。
11.富山市医師会健康管理センターの運営
健診事業では、地域検診・職域検診・人間ドック・学童検診・富山市施設検診などを行っている。
2021年度においては、新型コロナウイルス感染症拡大による影響を考慮し、受診者数・健診の項目・健診時間帯などの調整を行い、健診業務を継続した。今後も受診者と健診スタッフの安全を最優先に考え、できる限りの感染防止対策をとりながら継続していきたい。
2019年度より開発に取り組んできた、健診の運用を管理する「一般健診システム」が2021年4月より稼働した。健診の予約、診察・検査データ・画像などの入力や処理、結果の発送などの能力が向上することが期待され、より精度の高い健診が行えるように十分活用していきたい。
従来の人間ドックに追加することができる種々の「オプション検査」を実施してきているが、2022年度は新たに、「新型コロナウイルス抗体検査」などを導入する。受診者の多様なニーズに対応できるようにオプション検査の充実を図りたい。また、医師ドックの便宜性や受診率の向上を目的に、「日曜ドック」を継続する。健診精度のさらなる改善、健診受診者の満足度の向上と、会員の診療に寄与できる健診事業を行っていきたい。
今後、各種医療機器などの更新や新規の購入を計画しているが、適切な財務計画のもと、健全な経営を行っていきたい。
臨床検査事業としては、2021年度は、2020年度に引き続き新型コロナウイルス感染症への対応に追われた1年であった。新型コロナウイルス感染症のPCR検査の受託により収益は上がっているが、一般患者検体の出検数の減少が止まっておらず、大きな打撃を受けた。特に特定健診や各種がん検診(大腸がん等)は、臨床検査部にとって大きな柱となっているが、出検にも影響があった。
今後も、感染対策を継続しながら、検査に関する項目を積極的にPRし、出検減少を最小限に抑えるための工夫や、会員にとって利便性がさらに良くなるように努め、迅速に事業を着実に遂行して行く事が重要と考える。
また、地域住民の健康の維持・増進のための拠点としての機能維持、精度管理を重視した正確なデータの提供を着実に進めていくなど、センター独自の特色を活かし、会員の共同利用施設としての役割を果たしていきたい。
12.看護専門学校の運営
看護職の人手不足が深刻化して久しく、さらには、新型コロナウイルス感染症の拡大、蔓延に伴い、全国的に看護師養成の必要性が増大しているにもかかわらず、准看護師養成学校の入学者数は年々減少し、少子化の影響などもあり、看護師養成学校全体の入学者数にも陰りが見えてきている。一方、入学者の選考にあたっては、卒業後の主たる勤務場所となる、富山市医師会員の先生方を中心に考え十分に配慮しており、その成果も認められている。今後は、入学者数の推移、富山県全体の状況を把握しながら、合理的な学級編制等を検討し、会員の先生方のご理解ご協力をいただきながら、教職員による学校訪問、オープンキャンパス等を積極的に展開して、学生の確保に努めていきたい。
富山市医師会看護専門学校は、(1)働きながら学ぶことができる定時制であること、(2)中学卒業以上の最終学歴で資格を取得できる准看護学科があり、さらには准看護師資格取得後に、高等学校卒業程度認定を受ければ、看護師国家資格を取得できる看護学科まで一貫した教育が受けられる県内唯一の学校であること、がその大きな特徴である。近年入学者数の減少傾向がみられるものの、2021年も准看護学科の入学者74名中36名が30歳以上の学生であり、多様性を受け入れる社会への転換を目指す現代においては、幅広い年代・学歴の方から、やり直し・学び直しの場として選択してもらえることが、当医師会看護専門学校の存在意義の一つであり、今後も准看護師課程を存続させることは社会的使命であると考えて運営にあたっていきたい。
13.地域産業保健事業の運営
富山地域産業保健センター(対象:50名未満の事業場)事業は、2021年度同様に厚生労働省の委託を受けた富山産業保健総合支援センター(労働者健康安全機構、対象:50名以上の事業場)に協力して事業を継続していく予定であり、これまで同様に富山県医師会、富山労働基準監督署、富山県労働基準協会、富山県社会保険労務士会、富山市医師会健康管理センター等とも連携していく。
同センターでは以前より、特定健康相談、長時間労働者に対する面接、高ストレス者に対する面接、研修会などを行ってきたが、2021年度は新型コロナウイルス感染症の拡大により、対面による面接は減少し、研修会は中止となった。しかしながら、富山県においても産業保健にかかわる問題が多くあり、ソーシャルディスタンスを保つことやオンラインでの相談を取り入れるなどの感染対策を実施しながら、長時間労働者の健康確保対策やメンタルヘルス対策、治療と仕事の両立支援などをより一層推進し、労働者の健康を守るためにサービスの充実を図りたい。
14.IT化の推進
富山市医師会内では、健診システムの更新、施設検診・住民健診のシステム化の作業を進めている。
また地域医療連携ネットワーク“たてやまネット”に関しては、富山市医師会会員を中心に富山医療圏の基幹病院との病診連携、富山市歯科医師会、富山市薬剤師会に加え健診機関との連携を強化している富山市医師会健康管理センターを含め3健診センターの健診情報の共有が整備される予定である。
これにより健診情報を会員医療機関における医療情報とリンクさせて受診者並びに市民の健康を会員と共に守っていく体制が準備される。受診者の同意を基に“かかりつけ医”機能が補完され、いずれはPHR・EHRへの基礎的データとなる事も期待される。
医療・介護連携に関して、地域包括支援センター、居宅介護支援事業所、訪問看護ステーションにもネットワークを拡充してきた。本来、介護分野におけるICT化は行政が主体となるべき分野であり、今後の市政の方向にもよるが、まずは医療情報共有の原点に立ち返って医療機関同士の診療情報の共有と利用促進に向けた支援を続けたい。
“たてやまネット”上ではそれ以外に小児在宅診療情報共有システム、心筋梗塞データ収集システム、富山県医師会の脳卒中情報システムが運用されている。脳卒中情報システムについては県内18救急病院と8回復期病院が参加しており、富山県内で発症する脳卒中急性期のデータに加えて、回復期の治療やリハビリに関してもデータ収集が行えるようになり、その運用を富山市医師会が担っている。
15.個人情報保護への対応
個人情報を保護することは、当会の社会的責任・責務であると考え、確実な履行に努めなければならないと考える。
医療情報の保護の観点からは確実・安全に医療機関内で保管され、医師をはじめとする全ての医療従事者や委託先からその情報が外部に流出することがないように対策を講じる必要がある。
また、IT機器やインターネットの普及、情報ネットワークの利用拡大に伴い、社会活動全般において情報漏洩・改ざん・破壊のリスクが増加しており、関連のガイドラインに沿って個人情報保護に努めていきたい。